眉間にシワのよらない大学論『大学の話をしましょうか』
ミステリ作家と工学博士という二足のわらじを履く森博嗣(もり・ひろし)氏。
その著書『大学の話をしましょうか 最高学府のデバイスとポテンシャル』 は、元国立大学工学部の助教授でもある氏が、「学生」「大学」「自分」についてインタビュー形式のQ&Aで語るという、よく言えばシンプルな、悪く言えば単調な本。
でもこれが意外とおもしろい。
学生の「学力低下」は問題か?
たとえば学生の「学力低下」は問題ですか、という質問には、昔の学生より得点が低いというデータはあるが、文章はとても上手になっている、と答えたうえで、こう続ける。
問題は、そんなところにはなくて、まず、「学力」とは何か、(中略)学生が身につけるべき「力」とは何か、ということ
じゃあ、学生に求められる「学力」とは何ですか、と聞かれると、「わかりません」と答える。正直というか、身もふたもないというか。読んでいて思わず笑ってしまう。
ただし「わかりません」と言いつつも、氏は昔よりも必要とされなくなった能力をあげ、代わりにこれから必要になるであろう能力について述べている。
話の進め方がうまいので、ページをめくるたび、先がもっと読みたくなる。このあたりのうまさは、ミステリ作家の力だろう。
学問の楽しさを発見できる人、できない人
これからの大学が育てようとしているのはどんな人材ですか、という質問に対しては、こう答えている。
大学は基本的に研究を行うところです。(中略)研究する人の身近で、学問とは何なのか、学ぶということにはどんな楽しみがあるのか、を知る場所なのです。(中略)高校生までの子たちは、学問が楽しいとは絶対に考えていません。また、大学を就職するための通過ポイントだと考えている人にも、学問の楽しさは発見できないでしょう。
読んで楽しいだけでなく、これから大学に行こうとしている若者へのアドバイスとしても、大学の奥深さを知るのにも役立つ一冊だ。