読み書きそろばんができない大学生のための『大学破綻』

大学破綻  合併、身売り、倒産の内幕 (角川oneテーマ21)

大学だってビジネスだ。経営破綻すれば、消えてなくなる。そんなことになったら大学は大変だけど、学生はもっと大変だ。

『大学破綻 合併、身売り、倒産の内幕』 に書かれているのは、そんな悲劇が起きないようにするための大学改革論。

著者の諸星裕氏は、大学の経営・運営のプロを育てている大学教授。いわばプロのプロ。だからこの本は、大学改革を行う側の視点から書かれている。けれどこれが意外にも、大学選びに失敗したくない受験生にも役立つ内容になっている。

なぜなら「大学における最大の受益者は学生だ」という信念で、著者は話を展開しているから。利益を受けるべきは、理事長でも学長でも教授でも職員でもなく、学生であり、学生のために大学を改革すれば、大学は学生から選ばれるようになる。そうすれば経営は安定する、というわけだ。

すべての大学が、東大や京大になる必要はない

大学は少子化によって全入化時代に突入した。そのため、学力不足から、分数や日本語の理解があやしい大学生が増えているそうだ。

こうした状況を踏まえ、筆者は次のように主張する。多くの大学は、東大や京大のような「研究機関」を目指す必要はない。それより「教育機関」になって、普通の学生を社会人として生活できるように育てる役割を担うべきだ。

しかし、これまで研究機関であることを誇りにしてきた大学は、研究は得意だが、人を育てる教育は苦手という現実がある。なぜなら教授になるのに教員免許は不要だし、そもそも教授になるような人は勉強が好きで上り詰めた人なので、人を教えることが得意なわけではないからだ。

この本には、そんな教育が下手な大学をどう改革すれば、“普通の学生”を“よき社会人”に育てられるようになるのかが書いてある。

その改革ポイントは、エリートではないごく普通の受験生が、意中の大学で4年間勉強したらどんな社会人になれるのかを見極めるポイントにもなっている。

『大学破綻』なんてタイトルは硬いけれど、文体はやわらかい。受験生向けに大学見学の裏技や、見学時にしておきたい質問を紹介している章もある。タイトルに怖じ気づかずに手に取るべし。

大学破綻  合併、身売り、倒産の内幕 (角川oneテーマ21)

大学破綻 合併、身売り、倒産の内幕 (角川oneテーマ21)

  • 作者: 諸星 裕
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2010/10/09
  • メディア: 新書
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