偽りの記憶~宇宙人に誘拐されたの、覚えてる?~

宇宙人

私は宇宙人に誘拐されたことがあるとか、前世の記憶があるとか、びっくりするような経験を語る人がいる。彼らはウソをついているのではない。かといって、本当の話をしているわけでもない(だろう)。

彼らは、そういう経験をただ「記憶」しているだけなのだ。
なぜ、そんなありえないことを「記憶」できるのか?

今回のレポートは、法政大学文学部心理学科の越智啓太(おち・けいた)教授の講演です。

目撃証言を信用していいのか?

越智教授の専門は犯罪心理学。大学で教鞭をとりながら、冤罪を防ぐための尋問方法を警察に指導もしている。いわば、ウソのプロ。

教授の説明によると、私たちの記憶というのはあやしいもので、ちょっとしたことで書き換えられたり、ときには経験していないことを思い出したりするそうだ。

たとえば、実験で被験者に2台の車がぶつかる映像を見せて、「激突したときのスピードはどれくらいでしたか?」と聞く場合と、「接触したときのスピードはどれくらいでしたか?」と聞く場合では、「激突」のほうが、証言速度が平均して約15km/hも速くなるそうだ。

衝突事故


しかも、車の窓ガラスは割れていないのに、「割れたガラスを見ましたか?」と聞くと、最初に「激突」と聞かれた人は、その多くが「(割れたガラスを)見た」と答えるという。

その思い出は、本物か?

記憶が書き換わるのは、目撃証言だけではない。思い出も一緒。しかも、空想によって思い出をつくり出すこともできるという。

これにもまた、おもしろい実験データがある。

事前に親の協力を得て、被験者に子どもの頃に「実際に経験したこと」と、「実際には経験していないこと」を混ぜて聞かせ、「こんなことがあったの、覚えてる?」と質問する。

すると、経験していないことについては「覚えていない」と答えたそうだ。これは、正しい答えだ。

しかし、後日同じように「覚えてる?」と聞くと、
2回目に聞いたときは被験者の17.6%が、
3回目に聞いたときは被験者の25.5%が、
「覚えている・思い出した」と答えたという。

なぜ偽りの記憶は生まれるのか?

どうしてそんなことが起きるのか?

それは、聞かれたことによって発生する空想や、過去の経験、映画や本で得たイメージなどが、断片的に脳内で組み合わされるから。

恐ろしいことに、こうして生まれたニセの記憶は、一度脳内でつくり出されると、二度と消えないそうだ。だから今回紹介したような実験は、どちらも今では倫理的理由から行われていない。

100万人にニセの記憶を植えつけることも可能

一説によると、宇宙人に誘拐された記憶があるアメリカ人は、100万人もいるそうだ。

ケタの大きさにびっくりするが、これほどの人数であっても、心理学的な記憶のメカニズムで説明が“できそう”だと越智教授は言う。

え? 説明“できる”じゃなくて“できそう”ってどういうこと? と、会場にいた聴講者が身を乗り出すと、「このあたりは、新しく出した本に書いたので、ぜひ読んでみてください」と越智氏。宣伝がうまいなぁ。 

つくられる偽りの記憶:あなたの思い出は本物か? (DOJIN選書)

つくられる偽りの記憶:あなたの思い出は本物か? (DOJIN選書)

 

「犯罪心理学」が専門の教授なんて、なんだか怖そうなイメージがあったけれど、越智教授の口調は軟らかく、最後まで楽しいトークだった。

講演タイトル:その記憶は本物か?
スピーカー :越智啓太
開催日:2015年2月13日
主催 :八重洲ブックセンター

※掲載内容は取材時(講座開催時)のものです。本サイト閲覧時には、すでに状況が変化している場合があります。教員の所属大学・学部などは特にご注意ください。本サイトを情報源として利用する場合は、必ず各人の責任において関係各所へ最新情報を確認してください。
※この記事は、旧サイトのコンテンツを一部改変し、移植したものです。