「いのち」は誰が決めるのか『はじめて学ぶ生命倫理』

もしあなたが医者だったとして、こんな患者が現れたらどうするだろう?

痛み止めの効かなくなったガンの末期患者。余命はあと数日だ。患者はあまりの激痛に震える声で、「この苦しみにはもう耐えられない、死なせてくれ」と懇願している。

安楽死を求める患者に、あなたはどう対応すればいいのだろう?

はじめて学ぶ生命倫理: 「いのち」は誰が決めるのか (ちくまプリマー新書)

中絶した胎児がまだ生きていたらどうする?

次に、中絶のケースを想像してほしい。中絶で母体外に取り出された胎児が、まだ生きていた場合(実際にそういうケースがあるそうだ)、手足を動かす胎児を、あなたはどうすればいいのだろう?

もし胎児を積極的に殺したとしたら、それは「中絶の続き」なのだろうか。それもと「殺人」なのだろうか。

正解のない正しさを考える

著者の小林亜津子(北里大学一般教育部准教授)は実例やドラマ、漫画からいのちに関わる問題をとりあげ、読者にあなたならどうするかと問う。著者自身の考えは示さない。けれど考えるためのキーワードは提示してくれる。

たとえば「いのちの質(QOL=quality of life)」や「いのちの尊さ(SOL=sanctity of life)」「自己決定権」「判断能力」「ヒポクラテスの誓い(医師としての職業倫理)」など。

こうしたキーワードを手がかりに、読者はいのちとは何かを考えていくことになる。

倫理学に絶対的な正解はない。あるのは「何が正しいのか」という「正しさの探究」だ。それは独善的な考えとは違う。

(正しさの探究をするために)多くの人々が、さまざまな立場から、同じ問題について一緒に考えていくことが必要になります。生命倫理は、このような「対話」として展開されてきた学問なのです。

正解を教わるのではなく、何が正解か、何が正しいのかを自ら考える。学問の楽しさと難しさが『はじめて学ぶ生命倫理』には詰まっている。

はじめて学ぶ生命倫理: 「いのち」は誰が決めるのか (ちくまプリマー新書)

はじめて学ぶ生命倫理: 「いのち」は誰が決めるのか (ちくまプリマー新書)

  • 作者: 小林亜津子
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2011/10/05
  • メディア: 新書
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