生きる力は学べるか?(前編)
生きる力があるなぁ、と思う友達がいる。
家を買いに行ったら、不動産屋さんに「うちで働きませんか?」と言われて働きはじめたり、お客さんとして行った会社で、社長と話が盛り上がって働くことになったり。
彼女には不景気なときでも仕事のほうから寄ってくる。しかも、仕事をすれば成績トップ。でもバリバリな雰囲気はゼロ。恋愛も子育ても楽しんでいる。
彼女の「生きる力」はいったいどこからくるのだろう? 学びと関係があるかもしれないと思って、聞いてきました。
仕事は勉強と関係ない
――Aさんに話を聞いてみたいと思ったのは、生きていく力があるって思ったからなんだけど、その力は、いったいどこから来てるの?
A:みんなそう言うんだけど、よくわからないんだよね。なんで、そう言うんだろうね。
――基本的に仕事がなんでもできちゃうじゃん。今の仕事も(辞めたいんだけど)引き留めにあってるんでしょ?
A:どんな仕事でも「辞めます」って言ったら、「あっそ、じゃあ辞めてください」なんて言われないでしょ。
――そりゃそうかもしれないけどさ。
A:仕事についてはよくわからないけど、勉強に関しては小学一年生のときから、ずっと一番だったよ。中学受験も第一志望に受かったし。でも、そこはグレてやめちゃったけど。
――やめたって、勉強を?
A:ううん、学校を。(受験で受かった私立中学を)中二でやめて、公立中学に転校したの。私立は現役で東大に入るような子もいる中高一貫の女子校だったし、小学生のときから勉強ができたってことは、親が勉強をみてくれてたんだと思う。
私立では中二の段階で高校で教わるような勉強をしてたから、公立に転校したら「これ、やったな」ってことばっかりだった。勉強ができたのはそのせいだと思うんだけど、仕事はなんだろうね。
――仕事は勉強と関係ない?
A:ないと思う。大学の成績は、優良可でいえば「可」ばっかりだったよ。単位を取れればいいと思ってたから、楽そうな授業を先輩に聞いて選んでた。おもしろそうかどうかでは選んでなかったな。
大学で単位を取るのも仕事的
――大学はどうやって選んだの?
A:高校生のとき、つき合っていた人に、「学園祭に行こう」って言われて行って。それまでそんな大学があることも知らなかったんだけど、あまりよく考えず受けたら合格したから。大学受験のための勉強は、あまりちゃんとしてない。
――たしか法学部だったよね? それで受かるなんて頭いいなぁ。法学部を選んだのは、どうして?
A:公務員になりたいと思ってたから。でも大学に入ってから公務員になるのはやめたんだけどね。
――どうして公務員はやめたの?
A:ちょうど在学中に、公務員の汚職事件がいっぱいあって。
でもせっかく法学部に入ったんだから、ダブルスクールでもして何か資格でも取ろうかなって父親に言ったら「それなら最初から専門学校に行った方がいい。大学に行くなら資格のための勉強はしなくていいから、遊びなさい」って言われた。だから大学は遊んで暮らしたので、勉強はしていません(笑)。
――いいなぁ、いい親だ(笑)。
A:大学生になってまで「勉強しなさい」なんて親に言われないでしょ?
――確かにね。でも、遊びなさいとも言われないよ。それで本当に遊んでたの? 授業も出なかった?
A:授業は出たのと出てないのがある。出てないのは、試験で初めて先生の顔を知ったぐらい(笑)。それでも単位は取れてた。ノートを集めるのは得意だったからね。友達が多いから、みんなから集めて、試験のときはいつもコピー用紙を両脇にいっぱい抱えて歩いてた。
三年生のときには卒業単位は全部取れてたんだけど、何にも覚えてないよ。だから勉強のことを聞かれても、何も答えられないんだよねぇ。
――おもしろい先生とか、いなかった?
A:憲法の先生はおもしろかったから割とまじめに講義には出席してたけど、単位を一年、二年、三年と落としまくってた。
卒業に必要な総単位は取れてたんだけど、必修の憲法を取れないと卒業できないから、四年生の試験前に教授室に行って、「先生、私、○○(法律系の出版社)の就職内定をもらえました。でも、この単位が取れないと卒業できないんです」って言ったの。
そしたら「じゃあ勉強してください」って言われたから、「はい、勉強します。勉強しますけど、私、A(本名)と言いますので、よろしくおねがいします」って(笑)。
――(笑)そのとき、ウィスキーかなんか持っていったりして?
A:ううん。逆に、甘いものを頂いて帰ってきた(笑)。仕事的だよね、単位もらうのも。
仕事に役立ったのは心理学
A:仕事は心理学をやったおかげかも。
――心理学は大学じゃなくて、社会人になってから学んだの?
A:うん
――どうして心理学に興味を?
A:友達が心理学の学校に通ってたから。それで興味をもって、カウンセラー学科に通った。週に1回だったけど、1年ぐらいだったかな。結構長いものだったよ。
会社で営業成績が一番だったときに、リーダーに「君みたいな人をつくるにはどうしたらいい?」って聞かれたことがあるんだけど、「つくる」って、私は物かよって思ったんだけど(笑)。
――聞き方がよくないなぁ。
A:でも、今このインタビューで同じこと聞いてるよね(笑)。
――そうかも(笑)。
A:そんなこと聞かれるまでは、仕事は努力するかしないかだと思ってた。だから、みんな努力してないと思ってたんだけど、そうじゃないのかもしれないって、そのとき初めて思ったんだよね。それでリーダーには、「勉強してるからですかねぇ」って。
あと、深読みしない性格っていうか、素直だからかも。私は会社で「こうだ」って言われたら、それが納得できれば素直にやるから。
例えば(今、水を飲んでいる)このコップを売るのが仕事だとすると、「このコップが、あなたにとってすごく価値があるから薦めたい」というのが営業の基本なんだけど、コップの価値は会社が「こういうものだ」って教えてくれるわけ。
私は会社が教えてくれた価値を「なるほど、そういうものか」って思ったら、素直にお客さんに言えるんだけど、営業ができない人って、「わかりました」って言いながら素直にそう思ってないんだよね。
他のいろんな情報を見たり聞いたりして、こねくりまわして考えちゃって、「これが本当にいいものだ」って思ってないの。いいものだって思ってない人が薦めても、そりゃ買わないよね(笑)。営業が苦手って言う人は、だいだいそう。営業することに罪悪感があるか、商品に自信がないか、どっちか。
私は言われたら素直に「はい」ってやっちゃう。それがいいのかはわからないよ。「戦争はいいものだ」って言われて、「はい」ってなっちゃうかもしれないから。これはちょっと極端だけどね。
藤原和博さん(元リクルートのトップ営業員)は、これからの成熟時代は白いサイボーグじゃなくて、ちゃんと自分で考えて想像できる人の時代だって言ってる。
たぶん、私は白いサイボーグ型なんだよ。これまではサイボーグみたいな人のほうが仕事ができたのかなって思うけど、これって古い時代の働き方なんだと思う。だから、私はぜんぜんいいと思わない。
――心理学のどんなところが営業の役に立った?
A:本当に通じるのかわからないんだけど、心理学のテクニックを使うことで、自信を持って相手と接することができるんだよね。
例えば、営業するときはお客さまと真正面の位置にならないほうがいいし、段差があるような所だったら、お客さまが高いほうがいい。
話すときは「I(アイ)メッセージ」って言うんだけど、主語を自分にして話すといいって言われてる。例えば「これは、あなたにとっていいですよ」って言うんじゃなくて、「私はこう思います」って言うの。
それが本当に効くかどうかはわからないけど、こうしたやり方を意識してやることで、自信がもてる。
――セオリーとしてあるから?
A:そうそう。(次回に続きます)
※掲載内容は取材時(インタビュー時)のものです。
※この記事は旧サイトのコンテンツを一部改変し、移植したものです。
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