レポートのお手本にしたい『日本の童貞』
『日本の童貞』 ――性別を問わず、実に手に取りにくいタイトルである。が、しかし、学生ならば読むべし、読むべし!
タイトルからは想像しづらいが、レポートのお手本としても、社会学の考え方を知るのにも役立つ本だ。しかも、笑える。
童貞が「カッコイイ」時代があった!?
童貞という言葉からイメージするのは、恥ずかしいとか、モテないとか、そういうネガティブなものではないだろうか。
しかし、驚くなかれ。童貞が「カッコイイ」と思われていた時代があったのだ!
この本は、戦前から戦後にかけて童貞に対するイメージが変化していく様子を雑誌記事の言葉から読み解き、いつから恥ずかしいものになったのかを調べ、なぜ恥ずかしいものになったのか=恥ずかしさを支える社会のロジックを明らかにする。
そうすることで、童貞を問題化する社会の問題をあぶり出していく。
「意見と論拠」の示し方がすばらしい
著者の渋谷知美は東京経済大学の准教授で、専門は男性のセクシュアリティの社会史。この本は筆者が学生時代に書いた論文を加筆修正したものだ。論文だから当然参考文献があげられているのだが、これが実に丁寧で、まさにレポートのお手本のよう。
レポートの基本は「意見と論拠」だ。筆者は童貞にまつわる言説をいかに追跡したのか、その結果どんな媒体からどんな情報を得たのかをすべて明らかにしたうえで、意見を述べている。
だから、ちまたで問題になっている不正疑惑など寄せ付けないし、読者が「童貞についてさらに考察を深めたい」と思えば、迷うことなく参考文献にたどり着けるようになっている。
この意見と論拠の示し方は、レポートをつくる学生はもちろん、マーケティング調査をする会社員にも、まちがいなくお手本になる。
「童貞差別を生きのびる方法」のおまけ付き
この本の目的は、童貞に過剰に注目する社会の何たるかを明らかにすることだ。だから当事者に童貞差別を生きのびる方法を示す必要はないのだが、筆者はサービス精神旺盛で、「膨大な量の言説に目をとおしたからには、いくつかのアイディアを知っている」と言い、最後に3つのアイディアを提示する。その1つが、
「媚」の女偏を男偏にする勢いで、徹底的に女に媚びまくる
というもの。いやぁ、まいったね。これ読んだとき、鼻からコーヒーこぼれたよ。なぜそういう話の展開になるのかは、本書を読んでのおたのしみ。
童貞が「カッコイイ」時代があったという冒頭の意外な事実の提示から最後のおまけまで、おもしろおかしく読める、けれどまじめな硬派の論文だ。