長寿革命で高齢社会を乗り越えろ!

長寿革命

超高齢化が進む日本で、安定した社会をつくるためには、どんな政策が必要なのだろう?

今回は、長寿社会の政策課題と可能性について、慶應義塾大学の駒村康平氏(経済学部教授)による講演のレポートです。

平均寿命と平均余命のちがい

まずは現状、日本人はどれぐらい長寿なのかを把握しておこう。

日本人の平均寿命は男性80.21歳、女性86.61歳。(厚生労働省「平成25(2013)年簡易生命表の概況」

「長いなー」と思ったあなた、ちょっと待った! 実際には、人はもっと長く生きるのだ。

そのカラクリは――
平均“寿命”とは、0歳時における平均“余命”のこと。平均余命というのは、ある年齢の人が、平均であと何年生きられるかを示すもの。つまり「平均寿命が80歳」というのは、いま0歳の人は、平均的にあと80年間は生きられますよ、という意味。

では、いま65歳の人の平均余命はどれくらいかというと、男性19.08年、女性23.97年。

つまり、いま65歳の男性は
+19年の余命で「84歳」まで、
女性は+24年で「89歳」まで生きることになる。

なぜ「65歳+余命」のほうが「寿命」よりも長いのかというと、体が弱かったり事故にあったりして、幼い頃に死亡する人がいるから。

大雑把に言えば、成人してしまえば、平均寿命よりも長く生きるのだ。

子どもが町から消える日~驚異の高齢化率~

2013年10月時点での日本の高齢化率は25.1%。(高齢化率とは、総人口に占める65歳以上の人口割合)これが2100年には、40%以上になる見込みだという。実に、10人に4人が高齢者である。

こうなると、「うるさい」なんて言っていた幼稚園や保育園はなくなり、町を歩いているのは老人ばかり。「最近、子どもを見かけないねぇ」なんて会話が1カ月間続くことになるかもしれない。

当然、年金・介護・医療といった社会保障費は増えていく。それに少子化もあいまって、現状、現役世代2人で1人の高齢者を支えている状態が、2055年頃には現役1.2人で1人の高齢者を支える「かたぐるま」状態になる。

いかに高齢化社会を乗り越えるかは、日本が真剣に考えなくてはならない問題なのだ。

非現実的な社会保障費のカットより、現実を踏まえた改革を

「社会保障費の大幅カットを!」という声が、高齢化対策として威勢よくあがっているが、高齢化社会では、有権者も高齢化することを忘れてはいけない。
 
人間、誰しも自分がかわいい。自分の首をしめるような政策を打ち出す政治家に、高齢者が1票を投じるとは思えない。

ということで、駒村教授は社会保障費の大幅カットではなく、高齢化社会を乗り越えるための現実的な案として「長寿革命」を提案している。

引退年齢は社会環境に左右される

「長寿革命」の具体的な内容を説明する前に、歴史的に高齢者はどう扱われてきたのかをおさらいしておこう。

【世界の高齢者】

古代ギリシア・ローマ時代は、年齢による区分けはあまりなかった。

中世では、貴族や女性の寿命は短く、職人や農民は生涯現役を貫いた。

近代になると、乳児死亡率が低下して人口が増え、核家族や単身高齢者も増加した。

産業革命が起こると、製造業での工場労働が拡大し、体力の問題から高齢者の引退の必要性が出てきた。

【日本の高齢者】

江戸時代は寿命ぎりぎり(60歳ぐらい)まで現役だった。

明治後半、海軍火薬工場で55歳定年制が導入された。

昭和初期、産業の合理化と不況のために、雇用の調整弁として55歳定年制が広く一般に導入された。

これらのことから、引退は社会環境に左右されるということがわかる。

日本人は引退するのが早すぎる

「高齢者とは、何歳以上だと思いますか?」と聞かれたら、あなたなら何歳と答えるだろうか。

内閣府の調査によると、その回答の平均は「69.5歳」。つまり国民の意識では、高齢者は70歳からなのだ。(平成25年度『高齢期に向けた「備え」に関する意識調査結果』より)

現状の引退年齢は、社会の実情とも、国民の認識ともずれている。65歳時点での余命の延びに社会が対応していないといえる。

働きたいという意欲があって、働ける力のある高齢者には、働いてもらったほうがいい。そうすることで、社会保障費の受給者を減らし、支え手となる現役を増やすことができる。

「そんなこと言っても、高齢になると労働能力が低下するから無理だろう」と反論するがいるかもしれないが、実は、そうでもない。

高齢になると労働能力全体が低下する……ことはない!

高齢になると、体力は確かに低下する。想像力(独創性)も低下する。しかし、判断力(経験知)は低下しない。経験に基づく認知能力は低下しないのだ。
 
高齢になると「労働能力全体が低下する」というのは単なる思い込みであり、間違いだ。

駒村教授がとなえる「長寿革命」というのは、20世紀型の工業社会・福祉国家モデルを見直し、年齢ではなく能力に応じて、誰もが「経済活動への参加」ができるように保障し、「知識と経験」のベストミックスの社会を目指すというもの。

昔より長生きになっているぶん、人生で使える時間も長くなっている。その時間を生涯にわたって、年齢に関係なく自由に使えるようにしましょう、ということだ。

これはなにも労働に限った話ではない。学習、ボランティア、健康づくり、地域社会や政治政策など、いろいろなことへの「参加」を可能にすること。そのための意識改革と条件整備こそが、駒村教授がとなえる「長寿革命」なのだ。

講演タイトル:社会政策の課題と可能性
スピーカー :駒村康平(慶應義塾大学経済学部教授)
開催日:2015年5月15日(金)

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