生きることを丸ごと肯定する『生き延びるための思想』

生き延びるための思想 新版 (岩波現代文庫)

『生き延びるための思想』というタイトルを目にしたとき、「そんなのあるの?」と思った。これ、宗教の本じゃないよ。フェミニズムの最前線を走ってきた上野千鶴子による論考集。
教授が書いた論文だから難しいかな、と思いつつ序章を読んでみる。

もしフェミニズムが、女も男なみに強者になれる、という思想のことだとしたら、そんなものに興味はない

あれ? 違うのけ? そんな私の疑問を見透かすかのように、上野はこう続ける。

わたしの考えるフェミニズムは、弱者が弱者のままで、尊重されることを求める思想のことだ

そして女性兵士を例に挙げ、わたしたちは「暴力への男女共同参画」という難問の前に立たされている、さぁ、どうする、と問う。

難しくない、私にもわかるじゃん。しかも、おもしろそう!

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きみは一線を越えられるか?『果てなき渇望-ボディビルに憑かれた人々』

ボディビル

仕事中にもかかわらずジムに行き、筋肉バカの無能社員というレッテルを貼られたボディビルダーは言う。

一種の病気、筋肉鍛錬依存症ですね。(中略)社会性のなさなどは、それだけ自分がトレーニングに没頭しているという勲章ですよ


別のボディビルダーはドーピングを肯定し、こう豪語する。

ドーピングを禁止するというのは、根本的に間違っています。(中略)ボディビルダーが凄さを追求するのに、ルールなどは全く必要ありません


そうまでして彼らが手に入れるのは、一般的にはグロテスクと敬遠されるほどの過剰な筋肉の塊だ。彼らの美学とは何なのか?『果てなき渇望-ボディビルに憑かれた人々』 は、一線を越えられる人間の美学を垣間見られる、重厚なノンフィクションだ。

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『サヨナラ、学校化社会』~学校化社会の「勝ち組」に明日はない!~

サヨナラ、学校化社会 (ちくま文庫)

 四流大学から一流大学まで、さまざまな教壇に立ってきた上野千鶴子が学校的生き方を斬る!『サヨナラ、学校化社会』 はそんな本だ。

教授が生計の場を斬っていいの? と思うかもしれないが、これが逆説的に、学校で何を学ぶべきかがわかる内容になっている。

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非婚ですが、それが何か?

非婚ですが、何か?

男20.1%、女10.6%――これは日本の生涯未婚率の割合。日本では、一生結婚しない人が増え続けている。その結果、出生率は低下し続けている。

50年前の1960年代は、ほぼ全員が結婚していた。日本はわずか一世代で晩婚・非婚社会に変わったのだ。出産適齢期の男女にいったい何が起きたのか? これに対する処方箋はあるのか?

今回のレポートは、フェミニズムの論客であり、社会科学者である上野千鶴子氏の講演です。

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誰に向かって、今なぜ、この記事を書くのか?

アフロヘアの記者

「大阪社会部記者はこうしてアフロになりそして次を目指す~次世代の報道実務と現場~」という講演タイトルを目にしたとき、その人の顔がすぐに頭に浮かんだ。

稲垣えみ子氏。「アフロヘアの朝日新聞編集委員」と言えばピンとくる人は多いだろう。

私は稲垣氏の言説にそれほど触れているわけではないのだけれど、「次世代の報道実務と現場」というサブタイトルに興味が湧き、早稲田大学ジャーナリズム大学院で開催された報道実務家フォーラムに行ってきた。

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