なぜ人を殺してはいけないのか?~『考える方法』で考える~

考える方法: <中学生からの大学講義>2 (ちくまプリマー新書)

「どうすれば大学に入れるか」というハウツー情報はたくさんあるけれど、「大学で何を学べるのか」に関する情報は少ない。

だったらつくっちゃえ! ということで生まれたのが、ちくまプリマ―新書の「中学生からの大学講義」シリーズ。今回紹介するのはシリーズ2巻目の『考える方法: <中学生からの大学講義>2』

 考えるのに方法なんて必要なの? と思うかもしれないけれど、学問には、それぞれの学問にとって正しい考え方というものがある。この本では哲学者、宇宙物理学者、社会学者などが、それぞれの専門分野での正しい考え方を披露している。

なぜ人を殺してはいけないのか?

哲学者の萱野稔人氏(かやの・としひと/津田塾大教授)は、「なぜ、人を殺してはいけないのか?」という問いを例に、実際に哲学して見せてくれる。

この問いに対して、「悲しむ人がいるから」とか「自分がされたら嫌なことは人にしてはいけないから」という理由は、理由にはならない。

なぜなら前者は「悲しむ人が誰もいなければ殺してもいい」ということになるし、後者は「自分は殺されても構わない」という人は、人を殺してもいいことになってしまうから。

実は、哲学的に考えると「人を殺してはいけない」ということには、究極的な理由はない。

こう書くと、ムキになって理由を考え出す人がいそうだけれど、哲学で重要なのは、そこじゃない。大切なのは「なぜ究極的な理由が存在しないのか」ということを考えること。これが哲学的に考えるということだ。

哲学で、膠着した問題に風穴を開けろ

詳しい思考の筋道は本書を読んでもらうとして、こうしてどんどん哲学的に考えを深めていくと、「人を殺してはいけないという道徳には根拠がない」ということがわかってくる。

でも、私たちは好き勝手に人を殺したりはしない。根拠のない道徳を私たちは守っている。それはなぜなのか?

そんな根拠のない道徳を守る一方で、多くの日本人が死刑は必要だと考えているのはなぜなのか?

そもそも死刑とは何か?

哲学的に考えれば考えるほど、様々な問いが次々と現れる。当然、答えは1つに定まらない。でもだからこそ哲学は、

膠着した問題にいろんな角度から風穴を開けてくれる

と萱野氏は言う。

あなたはまだ、このおもしろい学問を知らない

このように本書には、それぞれの学問にとっての「考える方法」が紹介されている。自分がこれまで知らなかった学問の世界が見えてきて、知的好奇心を駆りたてられる。

大学で何を専攻しようか迷っている学生におすすめしたい。大学で学ぶとはどういうことかが、疑似体験できておもしろい。もしかしたら、おもしろすぎてぜんぶ学びたくなって、ますます専攻に迷ってしまうかもしれない。

考える方法: <中学生からの大学講義>2 (ちくまプリマー新書)

考える方法: <中学生からの大学講義>2 (ちくまプリマー新書)

  • 作者: 池内了,永井均,管啓次郎,萱野稔人,上野千鶴子,若林幹夫,古井由吉,桐光学園,ちくまプリマ―新書編集部
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2015/02/06
  • メディア: 新書