「福島の子どもガン多発報道」びびる前にデータを冷静に見ませんか?

福島の子どもに甲状腺がんが多発しているという報道がありました。その根拠となるデータは何なのでしょうか? そして、そのデータの読み方は正しいのでしょうか?

放射線の専門家でない私たちは、知識を一から学んでその正誤を判断する、などといったことはできません。そもそも何かコトが起きるたびに、専門知識を身につけるなんて不可能です。

だとしたら私たちにできるのは、情報が信頼できるものかどうか冷静に考えたうえで、合理的な判断をくだすことではないでしょうか。

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「全国の約30倍」って、何と何を比べたの?

福島・甲状腺検査 子のがん「多発」見解二分 過剰診断説VS被ばく影響説(毎日新聞 2016年3月7日)

過剰診断説と被ばく影響説、それぞれを唱える専門家は、異なる分析の仕方をしていますが、どちらも福島県の子どもの甲状腺がんの発症率は「全国の約30倍」と算出しています。

30倍……何と何を比べて30倍と言っているのか見てみると、おかしなことに気づきます。

過剰診断説では「推定の数字」を「推定の数字」で割って算出していて、正直、私にはこの数字の意味がぜんぜんわかりません。では被ばく影響説はどうかというと、これは私にも分かるぐらいおかしなもので、条件の違うデータを比べてしまっています。

どういうことかというと、福島の子どものがん発症率は、自覚症状の有無に関わらず、全員検査して出た数字です。これに対して全国のデータは、自覚症状があるので自ら病院に行って受診して出た数字です。比較している人の条件がちがいます。これでは、科学的には何も言えないはずです。

比べるのであれば、原発から「近い地域」と「遠い地域」、それ以外の条件は同じでなければなりません。

まともな情報を探ると、福島の子どもに甲状腺ガンが多発しているのは、過剰診断説に分がありそうです。

福島県で小児の甲状腺ガンの発生率が上昇、最有力科学誌が指摘する意外な原因とは?(BUSINESSNEWSLINE)

甲状腺結節性疾患追跡調査事業結果(速報)について(環境省)

情報の誤りを見抜き、合理的な判断をするには?

私はバリバリの文系人間です。科学にはうといし、数字にはとても弱い。だから3.11のときは、あせりました。何が本当なのか、何を信じればいいのか、まったくわからなかったからです。

あのとき、いろいろな情報にあたりました。調べるうちに、言説には2種類あることに気づきました。1つは感情的に不安を煽って「○○はダメ!」と断言するもの。もう1つは科学的データを示したうえで「○○とは言えない」と断言を避けるものです。

科学的根拠を示している人のほうが、歯切れが悪いんですね。「100%こうです」とは言わない。なぜか? 自分なりに勉強してわかったのは、科学的には「調べた範囲内では、問題ない」としか言えないからです。

在るものは証明できても、無いものは証明できない――よく言われることですが、それが科学なんですね。限界がある。白黒はっきりしているわけじゃない。活動家はそこを突いて「なぜ100%安全と言わないんだ。本当は危険だから言えないんだろう」と責めるのですが、それは揚げ足取りというものです。

科学は白黒はっきりしないグレーなものだけれど、限りなく黒に近いグレーから、限りなく白に近いグレーまである。そのグレーのレベルを踏まえたうえで、私たちは合理的な判断をしなければならないのです。

合理的な判断をするにはどうすればいいのか? それは訓練するしかありません。合理的な思考をトレーニングして身につけるしかないんです。

えーっ、そんなの面倒くさい。という声が聞こえてきそうですが、トレーニングしなければ、何かコトが起きるたびに、エセ科学やクズ情報に踊らされることになります。それで、いいですか? って、いいわけないですよね。

私にも内容が理解できた、文系人間におすすめの本を2冊紹介しておきます。ぜひ手にとってみてください。

京大医学部で教える合理的思考 (日経ビジネス人文庫)

『京大医学部で教える合理的思考』は、情報をどう見ればいいのか、話のウソを見抜く方法、合理的に考える方法を教えてくれます。著者は京大医学部教授ですが、ムズカシイ数字なんて一切でてきません。医学だけでなく身近な例もたくさん取りあげて、やさしい言葉でやさしく解説しています。

Amazonの書評では低評価が1本出ていますが、それだけで読まないのはもったいない! 確かに理系の考え方ができる人にとっては、わかりきった簡単な内容かもしれませんが、みんながみんな理系思考ができるわけじゃないから、3.11で大騒動になったのですから。

もうダマされないための「科学」講義 光文社新書

『もうダマされないための「科学」講義』は、科学的な考え方を講義形式で学べます。読めば科学とニセ科学を、嗅ぎわけられるようになります。『京大医学部で~』が簡単すぎるという人は、こちらをおすすめします(といっても難しくはないので、ご安心を)。

京大医学部で教える合理的思考 (日経ビジネス人文庫)

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  • 作者: 中山健夫
  • 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
  • 発売日: 2015/09/02
  • メディア: 文庫
 
もうダマされないための「科学」講義 光文社新書

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  • 作者: 菊池誠,松永和紀,伊勢田哲治,平川秀幸
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2011/10/14
  • メディア: Kindle版
 

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