非婚ですが、それが何か?
男20.1%、女10.6%――これは日本の生涯未婚率の割合。日本では、一生結婚しない人が増え続けている。その結果、出生率は低下し続けている。
50年前の1960年代は、ほぼ全員が結婚していた。日本はわずか一世代で晩婚・非婚社会に変わったのだ。出産適齢期の男女にいったい何が起きたのか? これに対する処方箋はあるのか?
今回のレポートは、フェミニズムの論客であり、社会科学者である上野千鶴子氏の講演です。
ロマンチック・ラブ・イデオロギーの崩壊
近代家族の結婚観は「愛・性・生殖」の3つが結びついた三位一体型だった。
しかし、
- 愛と性の分離=性のカジュアル化
- 愛と結婚の分離=離婚
- 結婚と性の分離=婚前交渉
という「性革命」が起きた結果、70~80年代の欧米先進国では、
- 離婚率の上昇
- 婚外子出生率の上昇
という2つの現象が起きた。そのとき日本はどうだったかというと、離婚率も婚外子出生率も上がらなかった。その代わり、
- 非婚率の上昇
- 少子化
が起きた。
非婚率の上昇と少子化は、なぜ起きたのか?
非婚率が上昇したのはなぜか?
「パラサイト・シングル」という言葉の生みの親である山田昌弘氏は、男も女も「結婚は損」と考えるようになったからだと分析している。
男は結婚を、家族を養わないといけない「金の損」と捉え、女は結婚を、家事・育児におわれる「時間の損」と考えるようになった。この考え方は、要するに「男が養い、女が家を守る」という保守的な結婚観である。この保守的結婚観が壊れない限り、若者は結婚しないだろう。
では、少子化になったのはなぜか?
これを知るには、どんな女性が子どもを生んでいるのかを見ればいい。日本では、結婚率も出産率も「正規雇用の女性」のほうが、「非正規雇用の女性」よりも高いというデータがある。派遣労働者が増え続けている今、少子化になるのは必然といえる。
人口現象に政府の介入は効果がない
今、国は必死になって結婚を奨励し、子ども手当のような金銭的インセンティブを設け、人口を増やそうとしている。しかし、これは効果がないことが、社会科学的にわかっている。
社会科学的には人口現象の理由は説明できないが、経験則から、人口現象に政府の介入は効果がないということはわかっているのだ。
たとえば戦中に、国は「産めよ増やせよ」キャンペーンをはっていたが、その最中、実際には出生率はじわじわと下がり続けていた。逆に、戦後の物資も食べ物も不足しているなかでは「人口抑制」キャンペーンをはったが、まさにそのとき、第一子ベビーブームによる人口の爆発的な増加が起きた。
必要なのは、少子化を前提とした制度設計
安倍政権は2025年に「希望出生率(*1)1.8」を実現することを目標に掲げているが、同年の女性の生涯非婚率予測は約20%。それを考慮すると、女性の有配偶出生率(*2)は2.24にならないといけない計算になる。こんな数字は目標ではなく、実現不可能な妄想だ。
様々な社会科学的データから、少子化は止められず、非婚・離婚・死別を含め、おひとりさま社会になることは避けられないことは明白になっている。
少子化はとめられないのだから、必要なのは少子化を前提とした社会設計だ。それは、おひとりさま仕様の制度設計でもある。今、国がやっていることは、その真逆。上野氏はそれを「泥舟の上で博打をうっている」と表現した。
【用語解説】厚生労働省サイトより
*1)出生率:人口千人に対する出生数の割合。
*2)有配偶出生率:国勢調査による配偶関係の「有配偶」「未婚」「死別」「離別」のうち、「有配偶」の女子人口を用いて算出した有配偶女子人口千人に対する嫡出出生数の割合。
【参考サイト】
生涯未婚率の推移(平成26年版厚生労働白書)
出生数及び合計特殊出生率の年次推移(平成27年度少子化社会対策白書)
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講演タイトル:「非婚ですが、それが何か?」
スピーカー :上野 千鶴子
開催日:2015年12月14日(月)
主催 :立教セカンドステージ大学
※掲載内容は取材時(講座開催時)のものです。演者の所属を含め、掲載内容はすべて取材時(講座開催時)のものです。なお、掲載内容には私の理解の限界というフィルターがかかっています。ご了承ください。