英語教育は必要か?
「英語教育は必要か?」
と、中学生に聞かれたら、あなたならどう答えるだろう?
水産業が盛んな岩手県の町に住む中学生が、特別授業で取りあげるテーマとして、これを提案したそうだ。
その子いわく、将来も地元で暮らすつもりだから、英語なんて一生使わない、と。
今回の学問楽では、立教大学で開催された「大学の英語教育は国際化にあたってどのように変わるべきか~近年の英語教育の3つの二元論を中心に~」という講演をレポートします。
スピーカーは、中学校の英語教科書でおなじみ『NEW CROWN』の著作者のひとり、桜美林大学特任教授の森住衛(もりずみ・まもる)氏。
「教養vs.実用」~大学は何をするところ?~
森住氏は。言語はコミュニケーションするためのものだから実用からは逃れられないが、今は「すぐ役立つ、実用的な英語」に傾斜し過ぎではないか、と疑問を呈した。
世の中には「不易と流行」、つまり、変わらないものと変わるものがある。「教養と実用」もそのひとつだ。
学校教育は“教養”を培い、学生に知的インパクトを与え、人格形成・恒久平和に寄与するもの。これは不易。
社会教育は“実用”であり、社会における実践と目標達成を目指すもの。こちらは流行。
お互いに異なる存在だ。それなのに今、学校教育と社会教育の混同が起きている。
「英語の授業を英語で行う」ことの失敗
学校教育と社会教育の混同の具体的な例は、「高校の英語の授業は英語で行う」というもの。
これは一見よさそうな授業に思えるのだが、実際に実施している学校では、いい結果が得られていないという。
この方法で授業をすると、学生は“英語屋さん”になってしまうそうだ。つまり、英語こそしゃべれるようになるが、話にアイディア・中身がないとのこと。
真のグローバル化を目指す大学に必要な英語教育とは?
言語は、それを母国語とする人の考え方そのものだ。だから言語を学ぶことで、多様性を理解し、お互いを尊重できるようになる。
英語教育を実用の名の下に矮小化してはいけない。すぐに役立つものは、すぐに役立たなくなる。真のグローバル化を目指す大学に必要なのは、“役に立つ英語”ではなく“ためになる英語”だ。
森住氏はそう語った。
しかし、実用を完全に否定していたわけではない。真の実用には教養が必要だし、真の教養には実用が必要だとも言った。問題はその比率。今は実用に傾斜し過ぎなのだ。
「教養と実用は7:3か6:4ぐらいがいいのではないか」森住氏は、長年教育現場で培ってきた感覚からと断ったうえでそう提言した。
なぜ日本の学生は英語の学習意欲が低いのか?
日本の学生は、他国の学生と比べて英語の文法はできるけど話せない、とよく批判されるが、これは事実ではない。
正しくは「文法“も”できない」のだ。
これは日本の教育のせいではなく、現場を見ている限りでは、学生の勉学意欲の差だと森住氏は言った。
この話に対して、会場にいた大学生がこんな質問をした。
「日本の学生の英語に対するモチベーションの低さは、実際に英語を使う機会がないことが原因だと思います。学生のモチベーションを上げるには、どんな対策が有効だと思いますか?」
森住氏は次のように答えた。
「英語の授業をおもしろくすればいい。『覚えなさい』と強制するのではなく、『考えてみよう』と言って、whyを
一緒に考える授業にすればいい」と。
例えば、
I | my | myself |
you | your | yourself |
she | her | herself |
he | his | himself |
どうしてheだけhisselfではなくhimselfなのだろう? というように。
「あらゆる人間には知的好奇心がある。だから、おもしろければ、自ら学ぶ」。森住氏は力強く語った。
「役に立つ」から「おもしろい!」へ
「英語教育は必要か?」
森住氏の回答は、こうだ。
――どうしてその子は、そう質問したのだろう? きっと、その子に「英語はおもしろい」と授業で思わせることができなかったのだろう。英語を使わなくても、おもしろければいいじゃない! と言える授業にしないといけない。
「役に立つ」という発想の教育では、
・使わない
↓
・使わないから役に立たない
↓
・役に立たないから学ばない
という連鎖になって当然。「役に立つ」から「おもしろい!」に転換することが必要ではないか。
講演タイトル:「大学の英語教育は国際化にあたってどのように変わるべきか~近年の英語教育の3つの二元論を中心に~」
スピーカー:桜美林大学特任教授 森住衛(もりずみ・まもる)
開催日:2015年1月9日
主催:立教大学英語教育研究所
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