瞳を閉じたままで世界を観る方法、あるいは分断したままで世界とつながる方法~『情報環世界』~

おもしろい本をみつけたので、今回はUXの話ではなくブックレビューです。

同じ花でも人と蝶では、花の色が違って見える。蝶には人間には見えない紫外線が見えるからだ。紫外線が見えると花を見つけやすい。花の密を吸って生きる蝶の感覚は、人間にはわからない。

生物はみな個々の身体能力の限界という閉じられた世界に生きている。現代の人間は身体だけでなく、フィルターバブルによって情報という視点からも個々に閉じられた世界に生きている。これを「情報環世界」と著者らは定義する。

な~んだ、分断に対する説教か、と思ったあなた!(私も)、残念でした。これが違うんだ。

『情報環世界』の書影

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この本はちょっと意外なことを言う。<フィルターバブル問題と聞くと、二言目には「どうやって開くか」「どうやってつなぐか」ということが議論になりがちです。(中略)ですが、他方で、「開くことは本当に幸せなのだろうか」「好きなものに囲まれて快適ならそれでいいじゃないか」という気もします>

ただし分断したままでいいんじゃね? と言っているわけじゃない。著者の渡邊淳司らは個々の情報環世界を認めたうえで、みんなが機嫌よく一緒に生きるにはどうすればいいか、どう対話すればいいかを模索する。

読んでいると、彼らの環世界にダイブしている感覚になる。ときどき自分の気持ちを代弁してくれているかのように感じられて、彼らと自分の境界が溶ける。「これ、わかる!」と思う瞬間だ。けれど境界は完全にはなくならない。ときに反発を感じることもある。読み進ほど、自分の中に疑問や問いが立ち現れる。あれこれ考え、何度もわかるとわからないの間を行ったり来たりする。

どうやら、これがいいらしい。わからないものに向き合い、わかるとわからないの境界を更新し続けることが、わからないものと共に生きるコツのようだ。

情報があふれる今、ユーザに考えさせないわかりやすいデザインがあらゆるモノに求められている。そんな中でこの本は読者に考えさせまくる。AIやロボットといった新たなわからないものが登場し、変わり続ける世界2.0を生きなければならない我々は、頭のOSを更新し続けなければならない。本には更新のヒントがつまっている。

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