『サヨナラ、学校化社会』~学校化社会の「勝ち組」に明日はない!~
四流大学から一流大学まで、さまざまな教壇に立ってきた上野千鶴子が学校的生き方を斬る!『サヨナラ、学校化社会』 はそんな本だ。
教授が生計の場を斬っていいの? と思うかもしれないが、これが逆説的に、学校で何を学ぶべきかがわかる内容になっている。
誰も幸せにしない学校化社会
就職のための通行手形として大学に行くのは、未来のために今をがまんするということ。この「未来志向」と「ガンバリズム」に「偏差値一元主義」を加えたものを学校的価値という。この価値は社会にまで浸透し、企業は偏差値で採用の合否を決め、採用後も偏差値序列に基づく人事を行っている。
偏差値という一元的なモノサシしかない社会では、優等生は他者から評価される不安に常に怯えることになる。心を病むほど企業に尽くしてしまう“デキル”社員は、その悪しき例だろう。一方、「どうせ私なんて」という不満を抱えた劣等生は、報酬に見合わない劣悪な労働条件のスパイラルに巻き込まれていく。
学校的価値がつくる学校化社会は、優等生も劣等生も、誰も幸せにしないシステムなのだ。
これからの時代に必要な生存戦略とは?
グローバルな時代になって、どんな企業も一生安泰ではいられなくなった。不況になれば、企業はあっさり社員を切り捨てる。「未来志向」と「ガンバリズム」で、「偏差値一元主義」の社会を綱渡りをするのは無謀というもの。
こんな時代に必要なのは、「どんなに状況が変わっても生きのびていける多元的価値観――こちらがダメならあちらがあるさ、あちらがダメならこちらがあるさ、という生存戦略」だ。
人は誰でも、生きのびたいという意志を持っている。だから何か問題があればそれを解いて、心地のいい状況を手に入れようとする。生存戦略とは言い換えれば、自分にとっての問題を発見し、それを解き、心地よさを手に入れる能力のこと、つまりは知恵のことだ。
上野はその知恵を「私の問題の解き方」を伝えることで学生に身につけさせる。なぜなら上野は、上野にとって切実な問題(フェミニズムやおひとりさま)を解くことはできるが、他人の問題を解くことはできないからだ。
今を楽しく生きろ
上野は学生に問題の解き方=ノウハウを教えるが、ノウハウは本人に動機づけがないと身につかない。だらか学生が研究テーマを選ぶときは、その学生にとって切実な問題を選ぶように上野は指導する。
テーマは何だっていい。例えば、ある学生は「理科系男と文系男の恋愛観の違い」をテーマに選んだ。ある学生は「大学という名のブランド観」をテーマにした。それでいいのだ。学生はこうした身近な問題を解いていくなかで、社会に出てから必要になる、土台といえるようなノウハウを身につけていく。
周りの価値に生き方を合わせる必要はない。大切なのは、自分の気持ち。自分は何を心地いいと思うか、何を楽しいと思うか、それがすべて。未来のために今をがまんするのではなく、今をせいいっぱい楽しく生きろ!
この本は、これから学生になる人への、上野からの魂のメッセージである。
【関連記事】
・読み書きそろばんができない大学生のための『大学破綻』
・眉間にシワのよらない大学論『大学の話をしましょうか』
・なぜ人を殺してはいけないのか?~『考える方法』で考える~